充電中の地中ケーブルを開放した場合、地中ケーブルには残留電圧が発生します。
これに関連して、①残留電圧とはどんなものか、②ケーブルの種類によってどのように違うか、③残留電圧に関する実務上の留意事項は何か、について解説します。
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①第1図に地中ケーブル開放時(電源側の遮断器を開放)の交流回路のイメージを示します。第1図は、ケーブルの絶縁抵抗をR、静電容量をCとし、他の定数は無視したもので、最もシンプルな回路になります。
②ここで遮断器開放時(t=0)の電源電圧をE、また、遮断器開放後のケーブルの残留電圧をvとします。遮断器開放後、RとCの間で放電(電流i)するので、これによって残留電圧vが発生することになります。
③少し難しくなりますが、この様子を(1)式に示します。Rにかかる電圧とCにかかる電圧の和がゼロになることを表した式になります。ここでは、電荷qを用いた式にしています。
(ここで、q、C、vの間には q=C×v の関係があります。
また、qとiの間には Δq/Δt=i の関係があります。)
(1)式を、vについて解くと(3)式になります。
(3)式は、t=0の時の電源側の電圧Eが、時定数T=C×Rで減衰することを表しています。
④以上は、式により示しましたが、要は t=0 の時の電荷(q=C×E)がRに放電し、それによって残留電圧vが発生することになります。
この残留電圧vは、一次遅れの状態(時定数Tのスピード)で低下します。
(第1図参照)
⑤ここでは、ケーブルの場合について簡単な回路を用いて原理を述べましたが、
固体絶縁物等では、帯電や放電の特性が複雑になるケースがあります。
残留電圧は、上記のように遮断器開放直前の電源側電圧の大きさEが、時定数
T(T=C×R)のスピードで低下します。従って、電圧階級とケーブルの違い
によって残留電圧の発生時間が異なることになります。
計算例1と計算例2に、具体的な数値例を示します。
計算例1: |
66kV 325mm2 CVの場合 (Rは3,000MΩ/km程度、Cは0.23μF/km程度)、 |
Tは12分程度 |
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66kV 325mm2OFケーブルの場合(Rは16,000MΩ/km程度、 |
Cは0.47μF/km程度)、 |
Tは2時間程度 |
すなわち、同じ電圧階級、同じサイズでもケーブルの種類によって、残留電圧の低下するスピードは10倍程度の差になります。
第1表 計算例1(時定数(T)のオーダー)参照
計算例2:
残留電圧vがEに対して、例えば1/10に低下するまでの時間を知りたい場合があります。
第2表 計算例2(残留電圧が低下するまでの時間)に計算方法や数値例を示します。ここでは、Rの大きさを実力値(一般値より少し大きくなる(すなわち、残留電圧継続が長くなる値)を使っています。
第2図に時定数T=8分、および2時間5分の場合の地中ケーブル残留電圧の減衰時間を示します。
第2表 計算例2 |
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①放電装置について
地中ケーブルの各種試験の際は、残留電圧を直ちに下げるため、放電装置を使用します。ケーブルに蓄えられたQ(電荷)は、放電装置を介して直ちに大地に放電されます。この放電装置をしっかり意識する必要があります。
②安全サイドの計算
計算例2では、残留電圧発生時間の算出を安全側(Rの大きさを、実際に近い値にし、発生時間を長めにみている)にしています。一般値と実力値に開きがある場合があるので、このように安全サイドの検討が必要なことがあります。
③他の装置における残留電圧
・残留電圧の原理は、Cに蓄えられたQが、電源電圧開放後にRに放電し、それによって発生するものであり、他の固体絶縁物(例えばGIS)等でも発生します。
・このような固体絶縁物(例えばGIS)の場合、ある程度時間がかかって(数十分オーダー)電荷Qが蓄えられ、放電もかなり長くなる(数時間オーダー)場合がありますので注意が必要です。今までは、交流、直流に関係なく論じてきましたが、この場合は、直流電源を印加するときが問題になります。
特に、スペーサ等の帯電が複雑で、このようなケースでは簡単に放電装置が使用できない場合があり、直流耐圧後はもっぱら自然な放電を何時間も待つしかない場合があるので、これについても注意が必要です。
・また、他の装置(例えば特殊なCT等)でも、同様に残留電圧が発生し、何度か
充電を繰り返すことにより残留電圧が加算され(高くなり)、事故に至ることも考えられます。
残留電圧の発生する装置があるかどうか、その特性をある程度知っておくことが大事になります。
④ケーブルにVT(計器用変圧器)を設置する場合の違い
・実際の電力系統では、計測や保護リレー用として、ケーブルにVT(計器用変圧器)が設置されています。この場合はVTの負担(RVT)の影響によって、残留電圧の発生時間が大幅に短くなります(VTなしの場合の10分~2時間が、大幅に短縮され、0.1秒程度のオーダーになります)。
・この効果により、架空線とケーブルの混在送電線において、再閉路方式を適用する場合、事故後の再閉路時間については残留電圧発生時間を気にしないで、数秒~数十秒のオーダーに設定しています。
(VT考慮の説明は重要ですが、複雑なので最後に参考として簡単に示します)
①第3図の①に、EVT(接地形計器用変圧器)がある場合の詳細回路を示します。
このEVTがない場合は、残留電圧の時定数(T)は10分程度になります。
(表1 計算例1 参照)
②第3図の②に、EVTがある場合の等価回路(時定数に着目)を示します。
EVTがある場合のCに蓄えられた電荷Qは、EVTの抵抗(図のRVT)を介して放電します。この場合の時定数は、ここではT=0.4秒と大幅に短縮します。