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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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誘導加熱と誘電加熱の得失 富士テクノサーベイ(株) 山崎 靖夫

誘導加熱と誘電加熱は表現上では一文字違いであり、類似の加熱方式と間違えやすいが、誘導加熱は導電物質に対する加熱方式であり、誘電加熱は絶縁体(誘電体)に対する加熱方式である。ここではそれぞれの加熱方式の特徴を明らかにするとともに、得失について解説する。

1. 誘導加熱方式

誘導加熱は導電性の物質を加熱する方式である。第1図に示すように導電性の被熱物の周囲にソレノイド状のコイルを配置し、コイルに交流電流を流すと時間的に変化する交番磁界が発生する。この交番磁界は被熱物に鎖交し、被熱物内部で電磁誘導作用が生じて起電力が誘導される。この起電力によって被熱物内部に電流が流れる。この電流は渦電流といわれる。被熱物に渦電流が流れると被熱物自身がもつ内部抵抗によってI2R損(ジュール損)が発生して加熱される。これが誘導加熱の原理である。

第1図 誘導加熱の原理第1図 誘導加熱の原理

このように誘導加熱で発生する起電力は電磁誘導の法則に従う。しかし、導体内部に流れる渦電流は、コイルが発生する磁束を打ち消す方向に流れる。この結果、導体内部ほど磁束密度が減少し、渦電流密度が減少する。この現象を表皮効果という。

誘導加熱における被熱物内部の電流分布を第2図に示す。この図が示すように電流は表面付近に集中して流れ、中心部の電流密度は低下する。渦電流がどれだけ被熱物に浸透するかを表す指標として、次式に示す浸透の深さが定義されている。浸透の深さは電流密度が約37%になるまでの表面からの距離としている。

formula01
formula01
ただし、
f : 電源の周波数〔Hz〕
 
ro-ro- : 導体の抵抗率〔Ω・m〕
 
myu_rmyu_r : 導体の透磁率〔H/m〕

浸透の深さは電源の周波数、導体の透磁率、導体の導電率(抵抗率の逆数)の積に比例して顕著になる。したがって、可変周波数電源を用いれば浸透の深さを自由に変えることができる。このため誘導加熱は被熱物の表面だけを選択的に加熱することなどが可能となる。

第2図 電流分布第2図 電流分布

誘導加熱を応用した加熱炉として、電源の周波数による分類を行うと50Hzまたは60Hzの商用周波数の電源を用いる低周波誘導炉と、より高い周波数の電源を使用する高周波誘導炉がある。これらの誘導炉は鋳鉄、軽合金、銅などの溶解に用いられている。

低周波誘導炉は使用する電源が低周波のため、電流が被熱物内部にまで深く浸透する。このため浴湯の自動かくはん作用が強く、かくはん装置が不要である。低周波誘導炉には、るつぼ形炉(第3図)、溝形炉(第4図)などがある。

第3図 低周波誘導炉(るつぼ形炉)第3図 低周波誘導炉(るつぼ形炉)
第4図 溝形誘導炉第4図 溝形誘導炉

一方、高周波誘導炉は、るつぼ形炉(第5図)が代表的である。この誘導炉の電源には周波数が20〜500kHz程度の高周波が用いられる。このため一次コイルにも表皮効果が生じ、発熱するため一次コイルには、中空の導体が使用され、その内部に通水して冷却する。高周波誘導炉は局部加熱が容易なので、金属の表面焼き入れ、鋳造用の加熱、半導体の熱処理などに用いられる。

第5図 高周波誘導炉(るつぼ形炉)第5図 高周波誘導炉(るつぼ形炉)

2. 誘電加熱方式

2枚の平行電極間に被熱物(誘電体)を置いて電極間に高周波電圧を加えると、被熱物内部には分子の双極子が形成される。この双極子は交番電界中で電界方向に激しく方向を変え、摩擦熱が発生する。誘電加熱はこの摩擦熱を利用した加熱方式で、被熱物内部から加熱することができる。

誘電加熱における等価回路を描くと第6図に示すように抵抗とコンデンサの並列接続として表すことができる。したがって、電圧E〔V〕、周波数f〔Hz〕の交流を印加したときに流れる電流のベクトル図を描くと第7図に示すようになる。

第6図 誘電加熱第6図 誘電加熱
第7図 電流の位相関係第7図 電流の位相関係

この図から誘電加熱における発熱量Pは次式となる。

formula02
formula02

(2)式のδは誘電体損失角であり、誘電加熱の場合はδ≪1である。したがって、この式は、

formula03
formula03

と書き直すことができる。

第6図の等価回路におけるコンデンサCの静電容量は、電極の面積をS〔m2〕、電極間の距離をd〔m〕、比熱物の比誘電率をεsとすれば次式で示される。

formula04
formula04

ただし、formula05formula05

よって、コンデンサCに流れる電流Iは印加電圧がV〔V〕であるから、

formula06
formula06

となる。この式でV/dは電界の強さを表すので、これをE〔V/m〕とおき、(3)式に代入すると次式を得る。

formula07
formula07

この式でd×Sは誘電体(被熱物)の体積である。よって単位体積当たりの発熱量pは次式となる。

formula08
formula08

誘電加熱の発熱量は(7)式に示すとおり誘電損失係数εstanδに比例する。このため誘電加熱は水分を多く含む物質の加熱に適する。実用例としては木材の乾燥・接着、食品の加熱・殺菌、プラスチックの加熱などに用いられている。

誘電加熱と同様の原理で加熱を行うものとしてマイクロ波加熱がある。マイクロ波加熱は電極間における交番電界を利用せず、電磁波を用いて加熱を行う。電磁波はマグネトロンと呼ばれる電子管から放射されるマイクロ波帯の電波を利用する。マイクロ波加熱は誘電加熱と同様にマイクロ波を被熱物に照射して生ずる誘電分極を、電界(電磁波)によって回転させたときに発生する摩擦熱で加熱する方法であり、発熱の原理は誘電加熱と同じであるが、電極間の電界を使用せず電磁波を使用する点が異なる。工業用のマイクロ波加熱装置には915MHz、電子レンジには2,450MHzの周波数(ISM周波数)の電磁波が用いられる。マイクロ波加熱は食品の加熱・殺菌・解凍や木材の乾燥・接着などに用いられる。

3. 誘導加熱方式と誘電加熱方式の比較

(1) 誘導加熱方式の特徴

誘導加熱は表皮効果を利用して局部を選択加熱することができる。このため加熱電力が少なくて済むほか、短時間で加熱を完了させることが可能である。また、工業的に安定な加熱方式であり、均一な加熱処理を大量に行うことができる。

(2) 誘電加熱方式の特徴

誘電加熱は一様な内部加熱ができるほか、必要であれば与える電界の場所を選ぶことによって選択加熱を行うことができるものの、加熱中に被熱物の誘電率が大きく変わることがあるので、電界の強さ、電源周波数を加熱に適するよう整合させなければならない。

誘電加熱方式は誘導加熱方式と比較して高い周波数の電源が必要なため、インバータなどの電力変換装置が必要となる。このため誘電加熱方式は設備費用が高くなるほか、電力変換装置が発生する高調波によって誘導障害や無線機器への電波障害を生ずる懸念がある。

電源系統に対する誘導障害については、誘電加熱炉への電源系統とほかの電源系統とを分離・分割するほか、能動(アクティブ)フィルタを用いることなどで対処する。また、ほかの無線機器への電波障害については、誘電加熱専用に設けられた周波数帯の電源を使うことで対応する。この誘電加熱専用に割り当てられた周波数はISM周波数と呼ばれている。ISMはIndustrial (工業)Scientific(科学) Medical(医学)の頭文字をとったものである。誘電加熱に用いられるISM周波数には915MHz、2,450MHzなどがある。