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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座
Presented by Electric Engineer's Association
学校法人育英学園 サレジオ工業高等専門学校 非常勤講師 郷 冨夫

 三相誘導電動機では、固定子巻線に対称三相交流電流を流して回転磁界を発生させ、この回転磁界の回転に伴い回転子が回転するので、回転速度は、回転磁界の回転速度、すなわち同期速度に依存する。
 別講座(理論)「交流電流による回転磁界の発生の仕組み」では、三相交流電流により回転磁界を発生させる基本的な原理について解説したので、本講座では巻線配置と磁極、回転速度との関係について掘り下げる。

2極機

 第1図に示すように、誘導電動機の固定子巻線がa相巻線、b相巻線、c相巻線の順に時計方向に電気角で120°(2極の場合は幾何学的角度も120°)ずつずらして配置(出力軸の反対側から見た配置)されているとする。この電動機に、相順がabcである対称三相交流電源を接続すると、第2図に示すように、各相巻線に流れる電流により発生する磁束の合成磁束Φ、すなわち回転磁界が時間経過に伴って時計方向に回転するので、この回転磁界の回転に追従して回転子も時計方向に回転することになる。

第1図 電動機(2極)の三相巻線配置の例

第2図 電動機(2極)の回転磁界(時計方向回転)

 第1図において、各相の巻線に流れる電流の正の向きとして、a相巻線に対し上側巻線に、下側巻線にを記しているが、a相電源から上側巻線に電流が流れ込み(往路)、下側巻線から電流がa相電源に戻る(復路)ことを表している。b、c相も同様である。また、第2図では、往路を 印a、b、c、復路を 印a‘、b’、c‘としている。
 第2図において、各相電流波形を示す図の位相0°のとき、a相が正の電流ピークであり、b、c相が負の電流ピークの1/2の大きさである。位相60°のとき、c相が負の電流ピークであり、a、b相が正の電流ピークの1/2の大きさである。位相120°のとき、b相が正の電流ピークであり、a、c相が負の電流ピークの1/2の大きさである。それぞれの位相における各相電流の向きを、正負の向きを考慮して図中にを記すことで電流分布が得られる。この電流分布にしたがって磁束の分布を描く(仮想磁極N極からS極に向かう磁束をΦとしている)と第2図の下の図が得られる。この図より、時間経過に伴い回転磁界が時計方向に回転していることが判る。回転磁界の回転速度は、電源の周期の1/3、即ち120°で回転角度120°、したがって1周期で1回転、即ち1秒で周波数分だけ回転することになる。
 一般に、p極の場合の同期速度ns[s-1]は、電源周波数f[Hz]とするとns=f/(p/2)[s-1]で表すことができる。ここで、p/2を極対数という。

4極機

 4極の誘導電動機の巻線配置を第3図に示す。回転機の固定子巻線がa相巻線、b相巻線、c相巻線の順に時計方向に電気角で120°(4極の場合は幾何学的角度60°)ずつずらして配置(出力軸の反対側からみた配置)されている。
 2極の巻線配置を示す第2図の左上の図では、一番上のa往路、右回りにc復路、b往路、a復路、c往路、b復路の順に巻線が配列されている。この配列を、第4図の左上に示すように2極分(電気角で360°)の巻線列として、配列順を守りながら巻線列を2組配置することで、4極の固定子巻線を形成することができる。第3図に示す各相巻線は、往路と復路の電流の向きを守りながら、右回りに巻線電流を流すように接続した例を示している。

第3図 4極機の巻線配置の例

第4図 4極機の回転磁界(時計方向回転)

 ここで、第4図に示すように、固定子巻線に流れる電流で発生する磁束により、回転磁界の仮想磁極はN極が2個、S極が2個、合計4極が形成される。第4図の下の図では、電気角で120°経過すると仮想磁極N1が60°時計方向に回転していることが判る。この回転磁界の同期速度はns=f/(4/2)=f/2[s-1]となり、2極機の1/2の速度になる。
 ここで、第3図では4極の単層巻の例を示しているが、実際には、誘導電動機の固定子巻線は第5図に示すような二層巻が多く使われている。二層巻は単層巻より巻線の種類が少なくて済み、工作が容易であるからである。二層巻では、第5図に示すように、右回りの巻線群と左回りの巻線群で固定子巻線が形成される。第3図の単層巻の例では、このうちの右回りの部分を使ったものである。

第5図 4極二層巻の例(1相のみ表示)

8極機

 8極の誘導電動機の巻線配置を第6図に示す。電動機の固定子巻線がa相巻線、b相巻線、c相巻線の順に時計方向に電気角で120°(8極の場合は幾何学的角度30°)ずつずらして配置(出力軸の反対側から見た配置)されている。

第6図 8極機の巻線配置の例

第7図 8極機の回転磁界(時計方向回転)

 第7図の左上に示すように、2極分の巻線列を、配列順を守りながら4組配置することで、8極の固定子巻線を形成することができる。第6図は単層巻の例であるが、各相巻線は往路と復路の電流の向きを守りながら、右回りに巻線電流を流すように接続している。  ここで、第7図に示すように、仮想磁極はN極が4個、S極が4個、合計8極で、同期速度はns=f/(8/2)=f/4[s-1]となり、2極機の1/4の速度になる。第7図の下の図では、電気角で120°経過すると仮想磁極N1が30°時計方向に回転していることが判る。

例題

【例題1】 
電源周波数50[Hz]、4極の三相誘導電動機の同期速度を求め、その同期速度を角速度に直せ。また、固定子内径200[mm]としたときの固定子内径近傍の回転磁界の移動速度を求めよ。

【解答】

【例題2】 
電気角と幾何学的角度の関係を示せ

【解答】
電気角は2極(1極対)で360°である。例えばp=4極の場合、電気角360°(2極分)は、幾何学的角度(360°/(p/2)=180°)に相当する。

【例題3】 
本文第3図、第4図に示す電源の相順abcの場合の4極の巻線配置の例、及び回転磁界の図に対応した、電源の相順acbの場合の図を描け。

【解答】
第8図、第9図に相順acbの場合を示す。
相順acbの場合の巻線配置は、第8図に示すように、本文第3図と同じである。この巻線配置で相順acbの電源を接続すると、第9図に示すように、電流ピークがa相、c相、b相の順になるので、位相120°(電気角) のときc相が電流ピークとなり、回転磁界が反時計方向に回転することになる。同期速度はns=f/(4/2)=f/2[s-1]となり、相順abcの場合と同じ速さになる。

第8図 相順acb、4極の巻線配置の例

第9図 相順acb、4極の回転磁界(反時計方向回転)