~終わり~
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変圧器の事故としては、
- 送電線への雷撃など外部事故に起因する短絡電流によって変圧器内部の機械的衝撃や振動が発生し、これによる絶縁破壊事故
- 変圧器の絶縁物の劣化等に起因する絶縁破壊事故
- 過負荷に起因する事故
などが考えられる。
いったん事故が発生すると、事故電流(アークエネルギー)によりガスが発生し、タンク内圧上昇(タンクの破損につながる)や絶縁油の噴出(引火のおそれもある)などに進展していくおそれがある。このため変圧器保護リレーの役割は大きい。
具体的な変圧器事故としては、
- 巻線間短絡事故(ターン間短絡、層間短絡)
- 巻線と鉄心間の絶縁破壊による地絡事故
- 高圧側巻線と低圧側巻線の混触事故
などが考えられる。最も多いのは巻線間短絡事故で、これを放置すると拡大して大きな事故に至ることになる。
変圧器保護としては、
変圧器の異常を極力早く検出し、電力系統から切り離す必要がある。
この異常検出方法としては、以下の2方法がある。
- 事故電流から判断する方式(電気式リレー)
- 変圧器タンク内の分解ガスから判断する方式(機械式リレー)
このうち電気式リレーは過電流リレー方式と電流差動リレー方式に分類できる。
使い方としては、
- 変圧器容量が小さい場合はシンプルな過電流リレー方式
- 容量が大きくなると事故検出能力の優れた電流差動リレー方式
が採用されている。
更に電流差動リレー方式は、
- 単純な「電流差動リレー方式」
- 誤動作防止にも優れ、最近もっぱら用いられている「比率電流差動リレー方式」
に分類できる。
以上からここでは「変圧器保護用の比率電流差動リレー方式」に主体をおいて説明する。
(1) 電流差動リレー方式の原理
通常時の変圧器一次電流と二次電流の関係
変圧器の一次電流と二次電流の間には、アンペアターンの法則に従った電流、すなわち、次式の関係が成立するように電流が流れる。
事故時の変圧器一次電流と二次電流の関係
事故時、例えば巻線間短絡が発生した場合は、見掛け上の巻線数が変化したことになり、上式が成立しなくなる。すなわち、の形となる。
この現象に着目して巻線間短絡を高感度に検出することを目的としたリレーが、電流差動リレー方式である。
電流差動回路の基本
電流差動リレー方式は変圧器の一次側と二次側の差電流を検出する方式で、高感度に異常を検出することができ、巻線間事故でも検出する能力がある。
第3図は電流差動回路の基本で、一括差動回路の例を示す。
(メモ3):一括差動回路のほかに巻線ごとの差動 回路(一次巻線と二次巻線ごとに設置)があるが、ここでは省略する(この方式 は後述する励磁突入電流では誤動作しないが、逆に巻線間短絡事故では不動作に なる特徴がある)。
通常時は変圧器通過電流に対してCT二次電流とが等しくなるようにしておけば、動作コイルに流れる電流は零となり、保護リレーは動作しない。
しかし、変圧器内部の事故時にはとが等しくならず、動作コイルに電流が流れ、保護リレーが動作することになる。
比率電流差動リレー方式
CTの特性差による不平衡電流や、負荷時タップ切換変圧器の場合のタップ切換による変圧比の変化による誤差電流が、変圧器事故でない場合にも動作コイルに流れる。このため、これらの電流による誤動作を防ぐ目的から、第4図のように通過電流で抑制力を発生させる抑制コイルを付加したものを比率電流差動リレー方式という。
詳細は後述する。
比率電流差動リレーの特性
比率電流差動リレーは、外部事故時などの過大電流が変圧器を通過した場合は大きな差電流が動作コイルに流れないと保護リレーは動作せず、また通過電流が小さい場合は小さな差電流だけで動作するようにしている。
第5図に比率電流差動リレーの特性例を示す。
なお、図の動作力は差電流(ベクトル和)、抑制力は通過電流(スカラー和)に抑制係数を乗じたものを表す。
アナログ形でも同様の考え方であるが、鮮明な特性という点で差がある。
(2) 変圧器保護リレー上の留意事項
電流位相整合と整合タップ比の選定
一般的には変圧器の一次側と二次側の結線には、Y-Δ、Δ-Y、Δ-Δ、Y-Y結線がある。Y-Δ、Δ-Y結線の場合は一次と二次とで電流位相が異なる。
第6図はY-Δ結線変圧器の電流位相関係ベクトルを示したもので、Δ側の二次電流は、一次電流に対して30°遅れることになる。このため一次と二次とで電流位相が異なる場合は、CT回路結線により電流位相を整合させる必要がある。
また、保護リレーに取り込む電流の大きさも、変圧比とCT比が必ずしも対応せず、一次と二次とでは相違する場合があるため、補償変流器(CCT)または保護リレーの電流補正機能により、大きさを合わせる必要がある。
Y-Δ変圧器の具体的接続
第7図にY-Δ変圧器の場合のCTの結線と比率電流差動リレーの接続例を示す。
変圧器一次側(Y)のCTはΔ結線、二次側(Δ)のCTはY結線として、電流位相の整合をとっている。また、電流の大きさはCCTで合わせている。
3巻線変圧器の保護
3巻線変圧器の保護を比率電流差動リレーで行う場合の接続の考え方を第8図に示す。第8図(a)は2巻線変圧器、第8図(b)は3巻線変圧器の場合を示す。
3巻線変圧器の場合は、(b)のように差電流の検出に変圧器の各巻線回路電流を1個の動作コイルに接続し、抑制電流の検出には各巻線回路電流をそれぞれ独立の抑制コイルに接続する。
励磁突入電流対策
変圧器を投入したときに大きな励磁突入電流が流れ、この電流は差電流として現れ、保護リレーが不要に動作する可能性がある。この対策として高調波抑制法や感度低下法などがある。ここでは一般的に用いられている「高調波抑制法である第2調波電流」による対策例を示す。
第9図はその具体回路例を示したものである。
励磁突入電流はひずみ波形であり、高調波を多く含み、一般的には第2調波の含有率が高い。この方式はこの第2調波に着目し、差電流に含まれる第2調波含有率が設定以上あれば、励磁突入電流と判定して保護リレーの出力をロックする方式である。
最近では第2調波含有率が15%程度に達するとロックするケースが増えてい る。
(1) 変圧器励磁突入電流
変圧器励磁突入電流とは
変圧器に電源を投入すると、定格電流より非常に大きな電流が流れることがあり、この電流を励磁突入電流という。
この電流により事故ではないのに過電流継電器やヒューズなどが不要動作することがあり、短絡保護協調にあたっては、この励磁突入電流を考慮する必要がある。
変圧器励磁突入電流の発生メカニズム
第10図の変圧器に電源を投入した場合の電流は第11図のような波形になる。
第11図は、変圧器鉄心の励磁特性を鉄心の磁束飽和特性を考慮して折れ線近似して表し、鉄心の残留磁束が +ΦRであるときに電源電圧を = 0で投入した場合の電圧、磁束、励磁突入電流を表したものである。
第11図から励磁突入電流は鉄心が磁束飽和するために発生し、磁束飽和期間中に大きな電流が流れることになる。このため波形は半波整流波形状となる。また、残留磁束ΦRが大きいほど励磁突入電流の波高値が大きくなることが分かる(鉄心の飽和特性、残留磁束、励磁突入電流に注意が必要)。
励磁突入電流の実測波形例
三相変圧器の励磁突入電流の実測波形例を第12図に示す。
(2) 各種変圧器結線時の接続例
比率電流差動リレーの各種変圧器結線時の接続例を第13図に示す。