直流成分法は、運転中のケーブルの接地線に流れる電流(充電電流)に含まれる直流成分を測定するもので、CVケーブルの水トリー劣化を的確に検出することができます。また、従来の方法では検出不能であった局部劣化や初期劣化も検出が可能であるとともに、診断はすべて接地系で行われるため、非常に安全です。
(1)水トリーによる直流分発生機構(整流作用)
交流電圧印加時におけるCVケーブルの直流分発生機構は第1図のように考えられます。すなわち、交流電圧のうち負の半サイクルの電圧が水トリー部に印加されたときは、水トリー部から絶縁体に負の電荷(電子)が注入され、次に正の半サイクルで絶縁体中に注入された負電荷は、水トリー部に吸い上げられるか、あるいは正の電荷の新たな注入により中和されますが、すべて消滅せずに一部は絶縁体中に残存します。
この繰り返しによって水トリーの先端部に負電荷が蓄積され、蓄積電荷自身による直流電界により、負電荷が対向電極に向って移動します。この負電荷の移動が直流成分として観測されるのです。
つまり、高圧ケーブルの絶縁体に発生した水トリー部は、第2図に示すような整流作用があるので、交流電圧印加時に絶縁体と遮へい層間に直流電流が流れます。直流成分法は、この原理を利用したもので、活線下で絶縁体に流れる電流の直流成分を摘出し、劣化診断を行うものです。
(2)測定原理
直流成分法の測定回路を第3図に、実際の測定状況を第4図に示します。ケーブルの測定端において、遮へい層からの接地線は測定時に開放とします。直流成分測定時には、ケーブル導体→大地→GPTからなる直流成分についての閉回路が構成されます。
なお、この測定法の原理は従来から提案されていますが、直流成分電流がnAのオーダと微小な値であるため、従来の測定器では検出が困難でした、しかし、測定器の検出感度の向上により、実布設ケーブルでの測定にも適用できるようになりました。
直流重畳法には、直流電圧の重畳により電流の直流成分を検出する方法と、これを利用して絶縁抵抗を測定する方法とがあります。
(1)直流成分を検出する方法
(a)概要
高圧配電線に数〔V〕~数十〔V〕の直流電圧を重畳したのち、被測定ケーブルの接地回路に流れる電流の直流成分を検出するものです。直流電圧の重畳は、水トリーの整流作用に伴う直流成分を大きく検出することを目的としています。
(b)原理
第5図に示すように、高圧配電線の1相からインピーダンスLを通して直流電圧を印加し、商用電圧に重畳させます。変電所変圧器の直流抵抗はほぼ零なので、他の2相にも重畳電圧は同様に印加されます。このとき、絶縁体中に流れる漏れ電流のうち、交流成分をフィルタで除去し、直流成分のみを検出します。ケーブルが劣化すると絶縁抵抗が低下し、直流重畳電圧により遮へい層に流れる直流電流が増大し、劣化が検出できます。
実際の測定状況を第6図に示します。この方法では、零相電圧の発生、検出信号への迷走電流の混入などが問題となる場合がありますが、次の方法により解決しています。
① 最適な直流重畳電圧の設定
直流重畳電圧印加によりGPTに直流電流が流れますが、この値が大きいとGPTの磁束飽和により零相電圧が発生し、変電所リレーを誤動作させる恐れがあります。これについては、実験およびコンピュータ解析の両面から予想される現象を十分に把握し、発生する零相電圧を抑制することが行われています。
② 迷走電流の消去
外部雑音、シースの電池作用などによって発生すると考えられており、この電流の影響を受けると、正確な劣化診断ができなくなる可能性があります。これらの消去法を第7図に示します。直流重畳電圧の極性を変えることにより、直流重畳法による電流Iの方向は逆転しますが、直流成分法による電流I'と迷走電流I''の方向は一定のままです。
したがって、+E印加時の測定値I+(=I+I'+I'')と-E印加時の測定値I-(=-I+I'+I'')の差(I+-I-=2I)を計算することにより、迷走電流I''の影響は消去できます。
(2)絶縁抵抗を測定する方法
(a)概要
活線状態でケーブルの絶縁抵抗を測定するもので、GPTの中性点から直流電圧を印加し、GPT中性点と遮へい層間に形成したブリッジのバランスをとるこよによって絶縁抵抗を求めるものです。
(b)原理
絶縁抵抗測定の回路図を第8図に示します。GPTの中性点から直流50〔V〕を高圧母線に印加し、ケーブル絶縁体を通して流れる漏れ電流を検出して絶縁抵抗を測定するものです。GPTの中性点およびケーブルの遮へいはコンデンサで低インピーダンス接地させており、ブリッジの回路はケーブルの絶縁抵抗RXを一辺とするホイートストンブリッジになっています。このため、高抵抗を高精度で測定することが可能です。
ケーブルの絶縁抵抗RXは、可能抵抗RVを調整してバランスメータV1の指示を零にしたときに、基準抵抗RM2の端子電圧と可変抵抗RVの端子電圧V2が等しくなることで成立し、
(1)
と求められます。
① シース局部電圧eSのキャンセル
ケーブルシースに発生する局部電圧eSは、第8図の等価回路で示されるようにブリッジの中央に入るために直流電源E2を調整して電圧計V1を零にします。
② シース絶縁抵抗RSの影響
シース絶縁抵抗RSはRGと並列になり、その合成抵抗が検出抵抗となるために、ブリッジ平衡の検出感度に影響を与えます。しかし、検出用抵抗RGを小さく選んでおけば、シース絶縁抵抗RSの影響を小さく抑えることが可能です。
③ 他の系の絶縁抵抗(モータ絶縁抵抗など)RNの影響
他の系の絶縁抵抗RNは、基準抵抗RM1に対して並列に入るために、その合成抵抗がブリッジの抵抗比に影響を与えます。しかし、(1)式のように電圧比RXを求めているので、RNを小さく選んでおけば、他の系の絶縁抵抗RNの影響は更に小さく抑えることもできます。
(1)概要
低周波重畳法は、運転中の配電線に低周波電圧を重畳してケーブル接地線に流れてくる低周波電流の有効分電流を検出し、それを絶縁抵抗に換算することで、ケーブルの劣化度合いを判定するものです。この方法は交流で測定するため、直流で検出できない劣化も検出可能なほかに、重畳電圧が低い(20〔V〕程度)ので、印加電圧による劣化促進の恐れがありません。
(2)原理
低周波重畳法の測定回路を第9図に、実際の測定状況を第10図に示します。配電線から低周波電圧(7.5〔Hz〕,20〔V〕)を高圧電路と対地間に重畳し、ケーブルの接地線から低周波電流を取り出すもので、第11図のように有効分電流IXRが大きいほど劣化が進んでいることになります。
(1)概要
ケーブル絶縁体中に水トリーが多数発生すると、誘電正接(tanδ)が増加することが知られており、また、それに伴って絶縁破壊値が低下します。
活線tanδ法は、活線状態のまま、被測定ケーブルに印加されている電圧および充電電流(接地線電流)を検出してtanδを測定します。
(2)原理
活線tanδ法の回路図を第12図に示します。被測定ケーブルの端子から分圧器により電圧信号を、終端箱の接地回路からCTに電流信号を検出し、電圧信号と電流信号を検出し、電圧信号と電流信号の位相差からtanδを測定します。
(1)複合判定法
一つの特性値から正確にケーブルの劣化度合いを判定するのは難しく、場合によっては誤った判定を下すおそれがあります。そこで直流成分法(または直流重畳法)と活線tanδ法の二つを組み合わせてケーブルの劣化診断を行います。
(2)零相電流法
(a)概要
ケーブルの劣化は3心一様ではないので、劣化が進行すると零相電流が増加します。この零相電流の増加をケーブルに接続されている零相変流器あるいは接地変圧器の中性点で送電中に測定して劣化診断を行います。
(b)特徴
測定は簡単ですが、三相不平衡電圧によっても零相電流が増大するので、劣化の傾向を精度よく診断するには難しい面があります。