電力系統に流れる無効電力とは何か。無効電力の発生源と負荷端での働き、無効電力を制御することによって得られる効果などについて解説します。
Update Required To play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your
Flash plugin.
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます
交流で電圧と電流の間に位相ずれ
があるとき、有効電力は
であり、電圧と直角の関係にある電流成分
と電圧
との積
を日本語では無効電力と呼んでいる(第1図)。
エネルギーを伝達する有効電力に対して無効電力と称したのであろうが、ややかわいそうな命名である。本当に無効であり、むだな電力なのだろうか。
英語では無効電力をReactive Powerと呼んでいる。日本語の無効に対応する言葉ではない。
第2図に示すように電圧
から位相差が
遅れの電流
を考える。
インピーダンス
に供給される瞬時電力
は、
である。ここで、
とおき、1周期間の平均電力を求めると、
になる。
は力率
の電力を表し、
はゼロである。つまり、
、
が瞬時的に表現された有効電力と無効電力である。
第3図と第4図に
、
をグラフ化した。
は強弱があるものの常に「+」の値であり、電力が常に負荷に向かっていることを示している。
しかし、
は「+」と「-」を上下している。「+」の時間帯では負荷に向かって供給されるが、次の周期では「-」の値となり、負荷から電源に向かっている。線路を行ったり来たりしている電力といえる。
英語のReactive Powerという表現は、「反作用として帰ってくる電力」とか、「回帰する電力」とかの意味になる。英語のほうがうまく実態を表現している。
この行き来している電力はどのような働きをして、どのように制御されるのかがここでのテーマである。
(1) 同期発電機と無効電力
第5図は電力供給系の概念図である。
原動機の回転エネルギーを発電機で電気エネルギーに変換し、電力系統を通して負荷に電力を供給している。
第6図は供給電流を基準にした電圧電流のベクトル図である。一般に発電電圧
に対して遅れ電流
が流れる。
第7図では、第6図をもとにして電力に関するベクトルに展開したものである。
は負荷に与えられる有効電力、
は負荷端に到着するまでの系統損失、これらの和であるoeは発電機が供給(発電)しなければならない有効電力である。
は負荷が要求する無効電力、
は系統で消費する無効電力で、これらの和であるedは発電機が供給(発電)しなければならない無効電力である。
同期発電機の特性として、第8図のV曲線がある。横軸に励磁電流を、縦軸に電機子電流をとり、負荷量をパラメータにしたものである。
励磁電流を強めると電機子から遅れ電流が、弱めると進み電流が発電される。
遅れ電流は発電電圧に対し遅れ位相で、
であり、進み電流は電圧に対し進み成分を含む
である。第1図のベクトル図からも容易に類推できることであるが、無効電力には遅れと進みが存在する。同期発電機は励磁電流を加減することでこの両方の無効電力を供給する装置である。
(2) 調相機
次に同期発電機にエネルギーを供給しているタービンや水車などの原動機を切り離すとどうなるかを考察する。
入ってくるエネルギーがなくなるので、発電機には供給するエネルギーがない。すなわち、系統への有効電力の供給ができなくなり、無効電力の供給だけとなる。これが同期調相機であり無効電力の制御に使われる。しかし、エネルギーがゼロでは回転子は回転できない。その分は系統からもらうことになる。これでは電力の供給を受けて仕事をする電動機である。発電機で考えた強め励磁で供給している無効電力-
は、電動機となった今では供給される無効電力である。すなわち、符合を反転して+
の無効電力を消費している状態である。遅れ無効電力を供給することは、進み無効電力を消費することと等価である。
この間、ハード的には何も変化がない。ただ見方を変えただけである。
同様に考えると、弱め励磁では調相機は無効電力-
を消費している。
同期機はこの無効電力を供給する装置であり、見方によっては無効電力を消費する装置ともいえる。
(3) その他の無効電力供給と消費源
調相機のほかに無効電流が流れる装置として電力用コンデンサやリアクトルがある。容量
の電力用コンデンサは電流として
が流れるので、
の無効電力を消費する。同様にリアクトル
では、電流が
となるので
の無効電力を消費する。
調相機に限らず電力用コンデンサ、リアクトルも無効電力の消費源とみたり、供給源とみることもできる。チョットややこしくなる。どのようにでも解釈できるが、送電電圧は系統のリアクタンスで低下するので、リアクトルは
の無効電力を消費すると考える。リアクトルと逆の働きの電力用コンデンサは
の無効電力を供給する。同期機器では強め励磁で
の無効電力を供給し、弱め励磁で
の無効電力を消費すると考えたほうが混乱しない。
以上の説明で
の前についている「-」が目障りである。そこで基準を遅れ位相において、「+」として扱っている場合がある。この解説では引き続き遅れは「-」として扱っていくが、ほかの技術書を読むときには注意が必要である。
力率補償用の電力コンデンサ容量を検討する場合、力率低下に相当する誘導電力(電流)を打ち消す容量性電力のコンデンサを考える。電動機の誘導性電流がなんとなく邪魔ものにみえてきてくる。しかし、電動機は誘導性電流による磁界中の電磁作用でトルクを発生する。電動機にとって必要な無効電力であるからゼロにしてはいけないのである。無効電力は決してむだ電力ではない。
しかし、系統を通して発電所から遠路はるばる運ばなくても無効電力の供給源を近くに接続すればよい。すなわち、電力用コンデンサを接続し、そこから必要な無効電力を供給する。
第9図、第10図は以上の説明を示したものである。
第9図では発電機から電力系統を通して有効電流
と無効電力
を送っている。電力を遠方から運ぶので、系統で
の損失が発生し、また負荷端の電圧も無効電流の分低下している。
第10図は電力用コンデンサを電動機に並列に接続し、そこから無効電力
を供給したものである。
この場合、電力系統は有効電力分の
だけを供給すればよい。系統での損失も
と少なくなり、電圧降下も小さくできる。
力率改善を無効電力の供給と消費の立場から眺めるとこのように解釈できるのである。
送電端と受電端をそれぞれ一定に保ちながら送電する方式を定電圧送電方式という。需要家端における電圧は極力一定にすることが望ましい。また、送電系統の安定運用からも定電圧方式が有効であり、電力系統で採用されている。
(1) 電圧調整と無効電力制御
第11図の単純モデル系統を考えて系統電圧と有効電力,無効電力の関係を求める。
送電端電圧を
、電力系統のインピーダンスを
、受電端の負荷を
とした場合の受電端電圧
を送電端の電圧を基準ベクトルとして求める。
(6)式から実数部と虚数部をそれぞれ取り出すと、
(7)式と(8)式から
と
を消去して、
の関係を得る。
いま、送電端電圧
を一定として、受電端電圧
と有効電力
、無効電力
の関係を求める。すなわち、
と考えて、
及び
の変化に対する
の変動分
、
を求める。
(9)式を
で偏微分すると、
よって、
同様に(9)式を
で偏微分して
を求めると、
そこで有効電力変化に対する受電端電圧の変動と無効電力変化に対する受電端電圧の変動の割合を比較するために(12)式と(13)式の比を求める。
ただし、
:受電端短絡容量
(14)式で
、
の関係から、
となる。
つまり、受電端電圧の変動は有効電力変化より無効電力変化によって大きく影響を受けることを示している。
したがって、電圧調整では無効電力を制御する方法が一般に行われることになる。
(2) 系統電圧の調整
定電圧方式で負荷が要求する有効電力を送るには、これに相当する無効電力を系統に供給しなければならない。そのために系統内では調相機や電力用コンデンサによる無効電力の供給がなされ、送電端では有効電力とともに無効電力を供給する運転が行われる。
しかし、系統の無効電力は負荷や系統の潮流変化によって絶えず変動し、無効電力が過剰になれば系統電圧が上昇し、不足すれば低下する。このため
(a) 無効電力が不足するとき
電力用コンデンサを投入、同期調相機の強め励磁運転、発電機の遅相運転(強め励磁運転)を行う。
(b) 無効電力が過剰なとき
分路リアクトルの投入、同期調相機の弱め励磁運転、発電機の進相運転(弱め励磁運転)、軽負荷送電線の停止、需要家の電力用コンデンサの開放などを行う。
なお、微小な変動について電圧調整器で調整する方法が採られている。
第1表に電圧・無効電力調整機器を示す。
電力用コンデンサ、分路リアクトル、同期調相機などの無効電力調整機器は、線路の無効電力潮流を変えることによって電圧降下を変化させ、間接的に電圧を調整する。
一方、負荷時タップ切換変圧器などの電圧調整機器は、直接電圧を調整する。
なお、表にある静止形無効電力補償装置(SVC)は分路リアクトルに流れる電流をサイリスタの位相制御により変化させ、無効電力を連続的に、しかも高速に調整できる装置である。
これらの装置については、電気技術解説「電力系統の電圧・無効電力制御」でも説明されている。
参 考 文 献
- 送電・配電(改訂版) 電気学会編 オーム社刊
- 無効電力は役に立たないのか、無効電力の供給源は 千葉 幸:電気技術者2005-11 (社)日本電気技術者協会
- 電気学会編:電気工学ハンドブック(第6版)