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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
送電線の雷異常電圧とその対策 片岡技術士事務所 代表 片岡 喜久雄

送電線鉄塔は長距離にわたって自然の厳しい条件にさらされるため、雷撃を受ける機会も多く、この雷撃による異常電圧が送電線に入り、伝播して発変電所などの設備に影響を与える。 したがって、電力系統の絶縁はこの雷異常電圧を基礎にして設計されている。 ここでは雷異常電圧の特質と、送電線自体としての対策について、その基本的な事項について解説する。
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01 送電線の雷異常電圧の特質

(1)雷異常電圧の伝播

 落雷は雷雲と大地間の放電(絶縁破壊)であり、そのときの雷雲底と大地間の電圧は1億V(1×108V)以上と膨大で、これに耐える絶縁は不可能であり、種々の対策が講じられている。
 送電線では架空地線で遮へいしてあるため、電線に直接雷撃を受ける割合は比較的少ないが、仮に第1図のように電線のP点に雷撃を受けたとすると、雷によるサージ電圧は、ほぼ光の速度で両側へ伝播する。このサージ電圧が隣接鉄塔に到達すると、碍子(がいし)連に加わる電圧は時間とともに上昇し、耐電圧を超過した時点で碍子連はフラッシオーバする。
 後述するように雷電圧の最大値に達するまでの時間は1〜2μsであることが多い。
 したがって、次の鉄塔方向へは図の斜線でつぶした碍子連のフラッシオーバ電圧を波高値とするサージ電圧が伝播することになる。
 この電圧は伝播中に波高値が減衰し、波形もなまってくる。また、電線への直撃でなく、架空地線や鉄塔に落雷した場合にも雷電流による鉄塔の電位上昇により碍子連がフラッシオーバして、同様のサージ電圧が送電線に侵入する場合がある。これを逆フラッシオーバと呼んでいる。また、サージ電圧は伝播中にサージインピーダンスの変異箇所で反射する。
 その場合、進入波に対する反射波の割合、反射係数Kr=( Z2Z1 )/( Z1+Z2 )、
進入波に対する透過波の割合、透過係数 Ka = 2Z2/( Z1+Z2 )で表される。
したがって、送電線の端末が開放されている場合、到達したサージ電圧は全反射して2倍になる。

(2)絶縁協調

 送電線に侵入し伝播する異常電圧の波高値は碍子連の耐電圧(フラッシオーバ電圧)によってその大きさが決まる。また、フラッシオーバ電圧は印加する電圧の波形(種類)によって異なるので雷電圧についての試験、検討には標準雷インパルス電圧が定められている。(第2図参照)
 波形の表示は±1/2 [μs]とする。したがって、負波の標準波形は−1.2/50μsと書く。
 電線への直撃雷に耐える絶縁を施すことは不可能であり、また送電線に発生、伝播する雷異常電圧の大きさは碍子連のフラッシオーバ電圧によって決まる。逆に送電線路の絶縁を強化することは、その系統に発生する雷サージ電圧を大きくすることになる。その場合、これに対応するため、発変電所など電気所の機器の絶縁も強化する必要が生じ、系統全体として不経済なものになる。
 このため系統の公称電圧ごとに避雷器の制限電圧よりある程度高く余裕をもった標準雷インパルス電圧による基準衝撃絶縁強度(BIL)を設けている。
各機器の絶縁強度はこの値以上にし、(BIL)の何%といういい方をする。
 これにより効果的、経済的な系統の公称電圧ごとの絶縁設計がなされている。第3図に140kV系統の絶縁強調の例を示す。


02 架空送電線の雷対策

(1) 架空地線と埋設地線

 送電線に直接落雷するとその膨大な電圧のため、各相の碍子連がすべてフラッシオーバしたり、2回線鉄塔では両回線事故になり、また損傷も大きく再送電が不能になる場合もある。
 この対策として塔頂に架空地線を設置して送電線を遮へいし、鉄塔を通じて雷電圧を大地に放電している。
 一般には1条布設し、遮へい角と呼ぶ架空地線の地上への垂線と架空地線と電線を結ぶ線の作る角度を45°程度以下にしている。高電圧主要送電線では塔高も高く、また遮へい効果を上げるため2条布設し、遮へい角を15°以下にしている。
 架空地線による遮へいが十分でも塔脚の接地抵抗が大きいと過大な鉄塔の電位上昇により、逆フラッシオーバが発生し雷異常電圧が送電線に進入する。塔脚の接地は普通基礎の建設時に接地用アングルを埋め込み、塔体と接続しているが、山岳地帯では接地抵抗が大きくなることがある。この場合に鉄塔から線路に平行または放射状に4本程度の亜鉛めっき鉄線を深さ30〜40cm,こう長40mぐらい埋設する。これを埋設地線といい、雷電流通過時には埋設線と大地間に放電が生じて常時測定値よりはるかに低い接地抵抗になる。

(2) アーキングホーン

雷異常電圧による送電線の碍子連のフラッシオーバを完全に防ぐことは不可能であるが、フラッシオーバアークが碍子連に絡んで碍子の損傷が大きくり、再送電不能になるのを防ぐため、碍子連にアーキングホーンが取付けられる。アーキングホーンの取付け状態を第4図に示す。
 碍子連の長さとホーン間隔の比 Z/Z0 をホーン効率といい、必ずアークホーンでフラッシオーバするように一般箇所では普通 0.8 ぐらいにする。
 海岸地区のように塩害対策上表面漏れ距離を大きくするため、碍子の連結個数を増加して碍子連の長さが長くなった場合でもフラッシオーバ電圧が増大しないようにアークホーンはそれに応じた長いものを使用し、ホーン間隔は変えないようにする。
また、発変電所などへの侵入雷異常電圧の抑制のため、これら電気所の近く数基でホーン間隔を他より幾らか短くすることもある。
 また、2回線鉄塔で両回線にわたる事故の防止の目的で、片回線のホーン間隔を他回線よりも短くすることも高電圧主要送電線で行われており、これを不平衡絶縁と呼んでいる。第1表に標準的な碍子の個数と絶縁間隔を示す。

(3)送電線用避雷器

 アーキングホーンによって、雷異常電圧によるフラッシオーバアークが碍子連に絡むのを防ぎ、碍子の破損による再送電不能などの事態は避けることができる。しかし、ホーン間がフラッシオーバすることは地絡状態であり、雷電流に続いて系統から続流が流れつづける。
 このため一度故障回線を遮断してアークを消さなければならない。主要送電線では高速度再閉路方式が採用され、数サイクルで再送電されているが、その間当該送電線(回線)の停電は避けられない。
 この対策として送電線用避雷器が使用される場合がある。これは耐張鉄塔のジャンパ線支持碍子に並べて避雷器を設置するものである。第5図に取付け状態を示す。
 最近では碍子連のアーキングホーンに続流遮断機能をもつ要素を取り付けたものも開発されている。


03 地中送電線における雷異常電圧

(1) 地中送電線内での雷異常電圧

 全線が電力ケーブルで構成されていて、架空送電線と接続されていない場合は雷異常電圧について全く考慮する必要はないが、接続されている場合には架空送電線から
地中送電線に雷異常電圧が進入する。
 電力ケーブルのサージインピーダンスが架空電線の約400Ωに対して30Ω程度であるため、地中送電線への透過係数は Ka= 2Z2/(Z1+Z2)≒0.14 で架空送電線を伝播してきた電圧の1/7程度が進入する。この電圧が開放端または変圧器直結箇所に到達すると、今度はその大部分が反射する。これが架空線、地中線の接続点に到達するとその大部分がまた反射する。
 この繰り返しにより、条件によっては架空送電線を伝播してきた電圧より大きくなることがある。この対策として架空送電線との接続点に避雷器を設置したり、電力ケーブルの絶縁レベルを上げたりしている。
 ただし、電力ケーブル内を伝播中に電圧は減衰するので、ケーブル長が1km以上あれば到達波以上になることはない。