〜終わり〜
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(1)半導体について
シリコン(Si)に代表される半導体は、第1図に示すように隣接する4個の原子とそれぞれ2個の荷電子を共有している。
これに光や熱を加えると、極小数の荷電子は原子の束ばくから離れて結晶中を自由に動き回る。これを自由電子という。自由電子が飛び出した後に孔ができる。ほかの荷電子がそこに飛び込むと孔が移動する。この孔は等価的に正の電荷をもっているので正孔と呼ばれる。自由電子も正孔も電荷を運ぶのでキャリヤとも呼ばれる。このように不純物を含まない半導体を真性半導体と呼び、真性半導体では電子と正孔の数が等しい。
リン(P)のように荷電子が一つ多い元素を不純物原子としてシリコンに混入すると、第2図のようにシリコンがリンに置換された構造になる。
余分な電子はリン原子との結合が弱く、わずかのエネルギーで簡単にリン原子から離れて自由電子となる。リン原子は正イオンとなる。このような半導体をn形半導体といい、リン原子のような不純物をドナーと呼ぶ。n形半導体では自由電子が正孔より多いので多数キャリヤ、正孔を少数キャリヤという。
一方、シリコンにホウ素(B)のように荷電子が一つ少ない元素を不純物原子として加えると第3図のように結晶中でシリコンがホウ素に置換される。
ホウ素原子は3個の荷電子しかもたないので電子が1個不足する。そこで隣のシリコン原子の共有結合から電子を奪って正孔をつくる。これによりホウ素原子は負イオンになる。正孔密度が電子密度より高い半導体ができる。これをp形半導体という。ホウ素原子のような不純物をアクセプタという。p形半導体では、正孔が多数キャリヤ、電子を少数キャリヤである。以後、自由電子を単に電子と呼ぶことにする。
(2)pn接合とダイオード
ダイオードは半導体素子の中で最も単純な構成の素子で、第4図のようにp形半導体とn形半導体が互いに接するようにしたものである。
この状況ではp形半導体に多くある正孔は、n形半導体のほうへ拡散していく。後にはマイナスに荷電したアクセプタが残る。
また、n形半導体に多くある電子も拡散してp形半導体のほうへ拡散していく。後にはプラスに荷電したドナーが残る。この領域をキャリヤが存在しない空乏層といい、ここにできる電界が電位障壁という電位差をつくりキャリヤのこれ以上の拡散を制限している。
p形半導体にアノード(A)を、n形半導体にカソード(K)の電極を付けてダイオードが完成する。
第5図はダイオードの特性とキャリヤの動作を模式化して表現したものである。
第5図(a)のようにアノードをマイナス電位に、カソードをプラス電位にするとキャリヤが空乏層と反対側に吸い寄せられる。電流は流れないのでオフ状態といい、このような電圧の加え方を逆方向バイアスという。
反対に第5図(b)のようにアノードをプラス電位に、カソードをマイナス電位にすると、キャリヤが空乏層を越えて相手の半導体領域に拡散していく。すなわち、n形半導体の領域にp形半導体から大量の正孔が入ってくる。同じようにp形半導体には電子が入ってくる。このようにしてpn接合間に電流が流れるのでオン状態という。このような電圧の加え方を順方向バイアスといい、流れる電流を順方向電流という。
(3)ダイオードのスイッチング特性
オン状態のダイオードをオフ状態にするには、接合にある電荷を消滅させる必要がある。正孔を例にすると、オン状態ではn領域に多量の正孔が注入されている。これを蓄積キャリヤという。ここで電圧を逆方向に切り替えると、正孔はn領域から逆にp領域に引き戻される。すなわち、しばらく大きな逆方向電流が流れた後に、接合でのキャリヤが一掃されオフ状態に移る。蓄積キャリヤにより逆特性の回復に遅れが生じている。第6図に逆回復過程の様子を示す。図でQrrが蓄積キャリヤを表しtrrが逆回復時間と定義されている。
この現象がダイオードやバイポーラトランジスタなどのスイッチング特性を悪化させる。
(1)バイポーラトランジスタの構造
第7図に示すように3層構造をしており、npn形とpnp形の2種類がある。三つの領域は中央をベース(B)、片側をエミッタ(E)、反対側をコレクタ(C)と呼ぶ。ベース領域は層が薄く、不純物濃度の低い。一方、エミッタ領域は不純物濃度が高い。
npnトランジスタを例にしてトランジスタの動作を説明する。
第8図(a)に示すようにエミッタ・ベース(EB)間のpn接合に順方向バイアスをベース・コレクタ(BC)間に逆方向バイアスをかける。
EB間のpn接合は順方向バイアスとなっているので、エミッタ端子に電流が流れる。エミッタの不純物濃度が高いので、ベースからの正孔による電流は少なく、ほとんどがエミッタから注入される電子による電流である。
ベース領域に注入された電子はCB間の接合に向かって拡散するが、その一部はベース領域の多数キャリヤである正孔と再結合して消滅する。しかし、ベース領域は非常に薄いため大部分の電子は再結合することなくCB接合に到達する。CB間のpn接合は逆方向バイアスでコレクタ側が正電位になっているので、これらの電子はコレクタに吸い取られる。これがコレクタ電流Icになる。なお、ベース領域で再結合し消滅した一部の電子はベース電流IBに相当する。
第8図(b)のように、エミッタ電流IEのコレクタに達した割合をαとすると、αIEがコレクタ電流になり、両者の差(1−α)IEがベース電流になる。このαをベース接地の電流増幅率といい、αは1に非常に近い数値である。
第9図にエミッタ接地の場合を示す。
エミッタ接地では入力はベース電流になる。ベース電流は(1−α)IEで出力のコレクタ電流がαIEであるから、エミッタ接地の電流増幅率βは、
β = IC/IB = αIE/(1−α)IE = α/(1−α) (1)
である。エミッタ接地の電流増幅率ということでβをHFEとHパラメータで表すこともある。βはトランジスタによって異なるが、数十〜数千の値を採る。
(2)静特性
第10図はエミッタ接地トランジスタの静特性で、ベース電流IBをパラメータにしたコレクタ・エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流ICの関係を示している。
横軸とIB = 0 の部分は、コレクタ電圧VCEが増加してもコレクタ電流ICはほとんど流れない領域で、遮断領域と呼ばれる。縦軸と特性曲線の部分はコレクタ電圧VCEが小さくてもコレクタ電流ICが流れる領域で飽和領域という。両者の間のベース電流によってコレクタ電流が決定される領域は活性領域である。VCEを更に増加していくと降伏領域に入る。
(3)エミッタ接地増幅回路
増幅回路では第10図のエミッタ接地の静特性曲線において活性領域を使用する。この領域ではコレクタ電流ICはベース電流IBの変化に対応して変化する。第11図の簡略化したエミッタ接地回路を例とする。
ベースバイアス電圧VBに信号入力として微小電圧Viを加えたとする。トランジスタのベース・エミッタ間電圧VBEはほとんど変化しないので、これによってベース電流は iB = Vi/RB だけ変化する。ここで、RBはベースに接続されている抵抗である。
コレクタ電流の変化はベース電流のβ倍なので iC = β × iB である。したがって、コレクタに接続された抵抗RCでの出力は Vo = RC × βiB である。これから、この回路の信号増幅率Aは、
A = Vo/Vi = RC × βiB/RB × iB = βRC/RB (2)
で表される。信号増幅率はβに比例している。
(4)トランジスタのスイッチング動作
第11図の回路でベースバイアスVB を大きく変化させると、スイッチング動作となる。第10図のエミッタ接地の静特性曲線において動作点は遮断領域と飽和領域を移動する。入力電圧VB = 0V ではベース電流がゼロになり、動作点は遮断領域にある点Aになる。コレクタ電流は流れず、トランジスタは第12図(a)のスイッチモデルで示すようにオフ状態となる。このため供給電圧Vccが出力電圧Voとして出力される。
次に入力電圧を十分なベース電流が流れるように高くすると(例えば、電源電圧)、動作点は飽和領域の点Bになる。コレクタ飽和電流 Ics = Vcc / Rc が流れる。この場合、第12図(b)に示すようにトランジスタはオン状態になる。このため出力電圧Voは、0V 近くまで低下する。
(5)パワートランジスタ
パワーエレクトロニクスの応用ではパワートランジスタはスイッチング素子として使用される。サイリスタに比べてスイッチング時間が短い、転流回路が不要で転流損失がないなどの利点をもっている。
パワートランジスタとして重要な特性は耐圧耐量、電流容量、安全領域(Safty Operation Area)などである。安全領域はトランジスタを破壊させることなく使用できる電圧・電流の範囲を示したものであり、定格コレクタ電圧、定格コレクタ電流、定格コレクタ電力損失のほかに二次降伏で決定される。
二次降伏とは、第13図に示すようにコレクタ・エミッタ間の電圧が電子なだれ降伏を起こした後、瞬時に低い電圧まで低下する現象である。
(6)ダーリントン形バイポーラトランジスタ
高耐圧パワートランジスタの欠点はエミッタ接地電流増幅率β が非常に小さくなる点である。この欠点を補ったのがダーリントン形バイポーラトランジスタである。ダーリントン接続を第14図に示す。
ダーリントン接続での電流増幅率はおよそ両トランジスタの電流増幅率の積 β1 × β2 になる。これによって電流増幅率を非常に大きくすることができるが、コレクタ・エミッタ飽和電圧が大きくなり、スイッチング時間が長くなることが欠点である。
スイッチング時間を短くするため駆動用トランジスタをMOSFETで置き換えたのがIGBTである。IGBTについては「トランジスタの構造と基本特性(2)」で解説する。
- 飯高 成男:著 ダイオード・トランジスタの動作原理と基礎、電気技術、2002→2003冬号、(株)オーム社発行
- 西堀 賢司:著 メカトロニクスのための電子回路基礎、コロナ社発行
- パワーエレクトロニクスの基礎、電気学会発行