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電磁誘導現象は電気のあるところであればどこにでも現れる現象である。このシリーズは電磁誘導現象とその扱い方について解説する。今回は、電磁誘導により生じるうず電流とその性質について解説する。
第1図のように、① ボタンのように、O点を支点として導体板を振り子のように振らせてみる。ここで、② ボタンのように、磁界Bを加えると導体板の振り幅は急速に減少し、停止することが観察される。このような現象はなぜ起こるのだろうか。
次に、②の現象は、③ ボタンのように、導体板を磁界の左側から右側へ運動させることを意味するので、④ ボタンのように、導体板を閉じたコイルに置き換えて観察してみよう。
この結果、コイルが、磁界Bに入る時と、磁界から出る時、電磁誘導現象が起こり誘導電流iが流れる。このため、コイルを左側から運動させると、コイルが磁界の左端から入る場合は、コイルには反時計方向の電流i1が流れ、Bとi1によって左方向の電磁力が働く。また、コイルが磁界の右端から出る場合は、コイルには時計方向の電流i2が流れ、いずれの場合もBと誘導電流iによって左方向の電磁力が働くことがわかる。以上の結果から、コイルは自己の運動方向と逆方向の力を受けることがわかる。導体板は無数の閉じたコイルの集まりと見なせるので、②で観察された現象は、導体板が磁界中で振り子運動することで、電磁誘導現象が起こり運動方向と逆方向の力を受けたため、導体板は急速に減速し静止したことになる。
第1図 導体板の振り子運動
③の場合では、導体板では第2図に示すように、電磁誘導現象によって、渦状の電流が流れるので、この電流をうず電流という。
第2図 第1図③の場合の電流の流れ方(うず電流)
このように、うず電流ができる現象は、導体と磁界(磁束)の相対的位置が時間的に変化する場合と、導体内で磁束の大きさや方向が時間的に変化する場合に見られる。
第3図 導体と磁束の相対的位置変化による「うず電流」の発生例
第4図 変圧器における磁束の時間的変化
第4図(a)に示すように、変圧器のような場合は、磁束の通る路(磁路)を構成する材料内では、第4図(b)のように、磁束が時間と共に大きさと方向が変化し交番磁束となるため、第5図のように、うず電流が流れ、この電流によってジュール熱が発生するため、導体に発熱が見られる。
第5図 交番磁束による「うず電流」の発生
第6図(a)のように、導体でできた長い立方体の中を図の方向に磁束φが通っているものとする。磁束は断面を一様な磁束密度で、(1)式で示すように時間と共に変化している交番磁束とすれば、
第6図 導体中の磁束変化
ここで、導体内の斜線部に注目すると、この部分は第6図(b)のように、幅a[m]厚さd[m]長さl[m]の導体であり、この部分では、網掛け部の磁束の時間的変化によって緑色部に起電力が誘導される。
網掛け部右半分の鎖交磁束φは、最大磁束密度をBm[T]とすれば、
であるから、右側緑色部では、次式の起電力が誘導され、
右側緑色部導体の抵抗Δrは、導体の抵抗率をρ[Ωm]とすれば、(c)図より、
なので、Δeにより緑色部を流れる電流Δiは、
この電流により緑色部導体での消費電力Δpは次式、
右側緑色部導体全体での消費電力(瞬時値)pは、
その平均電力Pは次式となる。
Pは、すべて全導体内で熱に変換される。このため、全導体内で発生する熱は単位体積あたり次式となる。
このようにして導体内で発生した熱は、材料の周囲に放散して無駄になる場合は損失となるのでうず電流損、この熱を加熱源として利用する場合は、誘導加熱装置の熱出力となる。
(11)式からわかるように、この電力は、「磁束密度、電源周波数、厚さ」の2乗に比例し、抵抗率に反比例する。
変圧器の場合は、磁路は交番磁束が通るので、この電力はうず電流損となる。このため、この損失を低減させるため、第7図のように、各々を絶縁した薄鋼板を積み重ねで磁路を構成させる成層鉄心が使用される。
第7図 変圧器の鉄心には成層鉄心が使用される
第8図(a)に示す半径R[m]の非常に長い円柱導体において、内部を図示の方向に交番磁束φが通っているとして、導体内の磁束密度は均一と考え、うず電流による消費電力を求めてみよう。
第8図 円柱導体内での磁界変化
第8図(b)のように、円柱の中心Oよりx[m]の部分で厚さΔx[m]、長さ [m]の緑色部に注目してみる。この部分(第8図(c))と鎖交する磁束φは、最大磁束密度をBmとすれば、
この磁束が時間と共に変化するため、緑色部に図示の方向に起電力Δeが誘導される。
この結果、緑色部には図の方向に流れる電流Δiは、導体の抵抗率をρ[Ωm]とすれば、
この部分の消費電力Δpは(15)式、全消費電力pは(17)式、単位体積当たりの発生熱量pVは(20)式、の各式となる。
第9図(a)のように、導体に直流電流を流すと、電流は導体の断面を均等に流れるが、交流電流iを流した場合は、この電流による磁束φが同心円状にでき、このφが時間的に変化するため、電磁誘導現象によって誘導電流(うず電流)iiが流れる。このため、iiはiを減少させるよう働き、この傾向は中心部ほど大きくなるので、電流は中心部より表面に向かうほど多く流れることになる。
このように、交流電流が導体の表面に集まる現象を表皮効果という。
第9図 交流電流は表面に近いほど流れやすい
このように表皮効果を考慮した場合は、導体内部の電流の流れ方は、電流密度で云えば、導体の表面が最大で、表面から指数関数的に減少して行くことが知られている。
いま、半径 の円柱導体を例にあげると、導体表面の電流密度の大きさをJ0[A/m2]としたとき、導体中心から半径r[m]の点における電流密度Jは、
で与えられる。
ただし、ρ:抵抗率[Ωm]、μ:透磁率[H/m]、ω:角周波数[rad/s]。
電流が表面に集中する度合い指標となるデータは、電流密度の大きさが表面のe-1(= 0.368)倍となる深さで表し、これを「浸透の深さ」という。そこで浸透の深さをδとすれば、δは次式で示される。
上式からわかるように、周波数が高く、透磁率が大きく、抵抗率が小さいほど、電流は導体の表面付近に流れることがわかる。
第10図には、表面からの深さに対する電流密度の変化のグラフを示す。
第10図 円柱導体内での電流密度の変化
【問題】 直径2[cm]の銅棒に周波数1,000[Hz]の交流電流を流したとすれば、浸透の深さδ[cm]はいくらになるか求めよ。
ただし、銅の抵抗率は1.72×10-8[Ωm]、比透磁率は1、とする。
解答
なお、抵抗率の単位をρ[Ωcm]とすれば、δは次式となる。
第11図 問題の答
第12図は誘導加熱装置としての応用例である。
第12図 誘導加熱装置
第13図も誘導加熱の応用例で、加熱調理器として市販されている電磁調理器である。
第13図 電磁調理器(IHコンロ)
誘導加熱装置の特長:無接触、局部加熱、選択加熱、均一加熱、高効率、高温度加熱、温度制御が容易、等。
その他の応用例:積算電力量計、うず電流制動、うず電流動力計等。
第14図にはうず電流とエネルギーとの関係を示す。
第14図 うず電流のエネルギー関係