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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
ラプラス変換とその使い方6<過渡現象編5>ラプラス変換等価回路による直流過渡現象の解き方 元東京電機大学短期大学教授 間邊幸三郎

電磁気現象は微分方程式で表され、一般的には微分方程式を解くための数学的に高度の知識が要求される。ラプラス変換は、計算手順さえ覚えれば、代数計算と変換公式の適用により微分方程式が解ける数学知識への負担が少ない解法である。このシリーズでは電気回路の過渡現象や制御工学等の分野での使用を念頭に置いて範囲を限定して、ラプラス変換を用いて解く方法を解説する。今回は、ラプラス変換等価回路による直流過渡現象の解き方について解説する。

1.例題

 このシリーズの第2回で扱ったRL直列回路の問題を復習してみよう。

【例題1】 第1図RL直列回路で、t=0でスイッチSを閉じた時、回路に流れる電流を求めよ。

RL直列回路
第1図 RL直列回路

 【解答】 (1) これまでの解法 

 第1図の回路で、電圧と電流の正方向を図のように決めると、電圧方程式は次式となる。

formula001
formula001

 以下の計算でI(s)の式を得る。

formula002
formula002

 (2) 新しい解法

 第2図のように、回路各部の電圧や電流をラプラス変換した諸量で回路をつくる。

第2図 s回路
第2図 s回路

 求めたい量I(s)について式を立てる。

formula003
formula003

 (3) I(s)をラプラス逆変換して求めている量iを得る。

formula004
formula004

2.s記号式計算法

 《計算の流れ》

  1  電源、電流、回路定数をラプラス変換してs関数に直して(s記号式表示)、s回路をつくる。

  2  s回路より求めたい量のs関数X(s)の式を立てる。(s回路計算

  3  X(s)をラプラス逆変換して、求めたい量のt関数x(t)を算出する。(逆変換

  いま、起電力のs関数をE(s)、電流のs関数をI(s)としたとき、

formula005
formula005

 とすれば、Z(s)は回路定数をラプラス変換したものに等しく、回路定数のs関数といえる。

 したがって、予め回路のZ(s)を知っておけば、

第1表 s回路の計算ルール
第1表 s回路の計算ルール

 (1) 回路を流れる電流は次式で求まる。(第1表左欄)

formula006
formula006

 (2)  formula007 formula007 の電圧降下 formula008 formula008 は次式で計算できる。(第1表中央欄)

formula009
formula009

 (3) 複数の回路素子が直列接続されているとき、個々の素子端電圧 formula010 formula010 を加えると、直列回路の両端の電圧 formula011 formula011 に等しい。[電圧則](第1表右欄左)

formula012
formula012

 (4) 回路の接続点では、流入電流と流出電流とは等しい。[電流則](第1表右欄右)

formula013
formula013

 (5) Z (s)は回路の接続形態によって合成ができる。

  ◎ n個の回路素子が直列接続された回路の合成値Z (s)は次式となる。

formula014
formula014

  ◎ n個の回路素子が並列接続された回路の合成値Z (s)は次式となる。

formula015
formula015

 (6) Z (s)はまとめると第2表となる。

第2表 回路定数のs記号式表示
第2表 回路定数のs記号式表示

 このように、回路の諸量をs関数で表して計算する方法をs記号式計算法という。

3.問題を解いてみよう

【例題2】 第3図の回路が定常状態にあるとき、t=0でSを閉じたとき、回路にはどんな電流が流れるか求めよ。

第3図
第3図

 【解答】 Sを投入したときのs回路は第4図となる。

第4図 s回路
第4図 s回路

 上図中の formula016 formula016 は、Sを投入する直前に回路を流れている電流なので、

formula017
formula017

 したがって、I(s)は、

formula018
formula018
formula019
formula019

 電流のグラフは第5図となる。

第5図 電流のグラフ
第5図 電流のグラフ

【例題3】 第6図の回路において、t=0でS1を閉じてから時間T 後にS2を閉じたとき、回路にはどんな電流が流れるか求めよ。ただし、S1投入前Cには電荷はなかったものとする。

第6図
第6図

 【解答】 S1を投入してから、T >t0 区間での電流は、

formula020
formula020

 なので、Tにおける電流 formula021 formula021 は、

formula022
formula022

 S2を投入したときのs回路は第7図となるので、電流I(s)は次式となる。

第7図 s回路
第7図 s回路

formula023
formula023
formula024
formula024

 したがって、回路電流は、

formula025
formula025

 電流のグラフは第8図となる。

第8図 電流のグラフ
第8図 電流のグラフ

問題1 第9図の回路において、t=0でS1を閉じてから時間T 後にS2を閉じたとき、回路にはどんな電流が流れるか求めよ。

(答は巻末)

第9図
第9図

【例題4】 第10図の回路において、t=0でSを閉じた場合、回路に流れる電流とLおよびCの端子電圧を求めよ。ただし、S投入前Cには電荷はなかったものとする。

第10図
第10図

 【解答】 この場合のs回路は第11図となる。同図より、

第11図 s回路
第11図 s回路

formula026
formula026
formula027
formula027
formula028
formula028
formula029
formula029

 vCは(37)式で求めたVC(s)を逆変換した(38)式で求まるが、EvLからも求めることができる。

formula030
formula030
formula031
formula031

第12図 電流と電圧の波形
第12図 電流と電圧の波形

【例題5】 第13図の回路において、t=0でSを閉じた場合、Rを流れる電流を求めよ。ただし、S投入前Cには電荷はなかったものとする。

第13図
第13図

 【解答】 この場合のs回路は第14図となる。

第14図 s回路
第14図 s回路

formula032
formula032
formula033
formula033

 [1]  formula034 formula034

formula035
formula035
formula036
formula036
formula037
formula037
formula038
formula038

 [2]  formula034 formula034

formula040
formula040
formula041
formula041

となり、この式をもとに電流が求められるが、[1]の式で、

formula042
formula042

とおけば、この場合の式が表現できるので、求める電流は[1]の結果である(58)式にこれらの条件を入れればよく、次式となる。

formula043
formula043

 [3]  formula034 formula034

formula045
formula045

第15図 電流
第15図 電流

問題2 
(1)第16図(a)の回路において、スイッチSを投入したとき、回路に流れる電流を求めよ。ただし、S投入前Cには電荷は無かったものとする。
(2)第16図(b)の回路において、スイッチSを投入したとき、回路に流れる電流を求めよ。
(3)第16図(c)の回路において、スイッチS1を投入してから、時間T 後S2を投入したとすれば、R1にはどんな電流が流れるか。

第16図
第16図

 **** 問題の答 ****************************************************

 問題1

formula046
formula046

 問題2

 (1) formula047 formula047

 (2) formula048 formula048

 (3) formula049 formula049

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