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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電圧・電流波形のいろいろ(4) (短絡事故) (株)高岳製作所 松田高幸

現場実務において様々なトラブルに迅速かつ的確に対応するためには、実際に起こる電圧や電流などの波形を理解しておき、波形からトラブルの内容を絞り込むことが決め手になることが多い。本シリーズでは、現象別の特徴ある波形を解説する。今回は、短絡事故時の電圧・電流波形を解説する。

直流回路における短絡事故

 第1図に示すようにt=0 秒の時点で短絡事故が発生すると(第1図 (a)直流回路でスイッチが開から閉になった状態)、大きな短絡電流が流れる。

 この短絡電流Iの大きさは(1)式で示される。電源側の直流電圧は一定とみなせるので、短絡電流の大きさは第1図(b)のように一定となる。電圧は図示していないが、短絡事故点では0V で電源に近づくほど高くなり、電源端ではE〔V〕となる(なお、実際にはいくらかの過渡的な現象があるが、ここでは無視している)。

formula001               (1)
formula001               (1)

      R:抵抗〔Ω〕

      E:直流電圧〔V〕

      I:直流電流〔A〕

2. 交流回路における短絡電流

(1) 単相回路

 第2図に示すようにt=0 秒の時点で短絡事故が発生すると(第2図(a)単相回路でスイッチが開から閉になった状態になり)、直流回路の場合と同じように大きな短絡電流が流れる。ただし、交流回路なので電流の大きさは一定(直流)ではなく正弦波となる。

 直流回路の抵抗Rに相当するものとして、交流回路ではRのほかにL(インダクタンス)とC(キャパシタンス)があるが、第2図(a)ではRだけとして表している。このようにすると短絡電流iは第2図(b)のとおり電源電圧eと同相になり理解しやすい。数式で見ても(2)式、(3)式のとおり簡単である(電流の実効値Iは(4)式に示すように直流回路と同じ式になる)。

 電圧は図示していないが、短絡事故点では0Vで電源に近づくほど高くなり、電源端ではe〔V〕となる。

formula002               (2)
formula002               (2)
formula003           (3)
formula003            (3)
formula004                     (4)
formula004                     (4)

(2) 三相回路(3相短絡)

 第3図に示すようにt=0秒の時点で短絡事故が発生すると(第3図(a)三相回路でスイッチが開から閉になった状態になり)、3相短絡事故となり大きな短絡電流が流れる。三相回路なので事故前の電圧は第3図(b)のように120°位相差の電圧になる。短絡電流も120°位相差の電流になるが、ここではa相に着目し第4図に図示している。

 a相回路に着目すると、単相回路のときと同じになる。

 RLCや事故中の電圧については前述のとおりであり、説明を省略する。

 以上についてa相に着目して説明すると第4図のようになる。すなわち、単相回路の説明とよく似ている(eaiaのようにa相を表していることに注意)。

 なお、a相の電源電圧ea、短絡電流iaは(5)、(6)式となり、また短絡電流の実効値Iは(7)式となる。

formula005            (5)
formula005            (5)
formula006        (6)
formula006        (6)
formula007                   (7)
formula007                   (7)

(3) 三相回路(2相短絡)

 第5図に示すようにt=0 秒の時点で2相短絡事故が発生すると(第5図(a)三相回路でb相とc相間のスイッチが開から閉になった状態になり)、2相短絡電流が流れる。この場合の等価的な回路は、b、c 相の線間電圧を一つの電源ebc、b相とc相の二つの抵抗Rが直列接続されたものを一つの抵抗2Rとみなすと、第5図(b)のようになり、2相短絡事故時の短絡電流ibcは第5図(c)となる。

 ここで第5図(b)の回路から短絡電流ibcを数式で求めると以下のとおりとなる。

 b相、c相の相電圧は、

formula008
formula008
formula009
formula009

であるから、これより線間電圧ebcは以下となる。

formula010
formula010

 したがって、2相短絡電流ibcとその実効値Ibcは以下となる。

formula011           (8)
formula011           (8)
formula012           (9)
formula012           (9)

 (9)式と3相短絡電流の(7)式とを比較すると、2相短絡電流の大きさは3相短絡電流の formula013 formula013 倍になることが分かる。

 なお、RLCや事故中の電圧については前述と同様に省略する。

3. 参考:Lがある場合の短絡電流

 ここまでは理解しやすいように抵抗Rだけの回路で説明したが、実際の系統では一般に抵抗Rは小さく、ωLが大きい。このため短絡事故電流を考える場合には、Lを考慮する必要がある。

 ここではLがある場合の単相回路の短絡事故電流について、簡単に解説する。第6図(a)に示すようにR - Lで構成された単相回路で、t=t1秒の時点で短絡事故が発生した場合の電流は、短絡事故の発生タイミング(t=t1)によって電流波形(直流分の有無)が相違し、第6図(b)、(c)のようになる。

 ただし、ここではωLRの条件としている。第6図(b)は電源電圧の最大値付近で短絡事故が発生した場合で、直流分がほぼ0となる交流の電流波形となる。第6図(c)は電源電圧が0付近のときに短絡事故が発生した場合で、交流電流に直流分が重畳した波形となる。この直流分は事故直後には(図のように)大きな値になるが、その後時間経過とともに減衰し、定常時は交流分のみの電流波形となる。

 なお、この短絡電流iを数式で示すと、(10)式のようになる。また、定常時の短絡電流は(12)式、実効値は(13)式となる(数式の導出過程は省略する)。

formula014
formula014
formula015
(10)
formula015
(10)
formula016          (11)
formula016          (11)
formula017      (12) (定常時の短絡電流)
formula017      (12) (定常時の短絡電流)
formula018           (13) (定常時の短絡電流の実効値)
formula018           (13) (定常時の短絡電流の実効値)

 短絡事故時の電圧・電流波形として、電流波形に重きをおいて解説した。また、交流回路ではRだけの回路から始め、Lを考慮したり(電圧に対し位相遅れあり)、事故発生時の位相による違いを考慮したり(直流分の有無あり)、少しづつ複雑になるよう心掛けた。
 次は地絡事故時の波形について解説する。