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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
「静」電気から「動」電気への橋渡し 東京電気技術高等専修学校講師 福田 務

電気理論を理解するためには、電磁気現象、電気回路、その応用としての計測など多くの分野の知識が必要で、これらの分野を関連付けて覚えておくことは、電気理論の理解を深めるうえで重要である。特に、初学者は摩擦電気と呼ばれる静電気の諸現象から勉強をはじめることが多いため、静電気そのものが電球を点灯させ、オームの法則を成立させる動電気と本質は同じものであるにもかかわらず、その関連がつかみにくい。ここでは、静電気から動電気への橋渡しを手助けするため、実験例などを紹介しながら、理論的考察も含めて解説する。

1. 静電気で蛍光灯を点灯させる実験

ふだん我々の周囲にある物質は、電気的には物質内の元素における正電荷をもつ原子核と、負電荷をもつ電子が中和しており、電気的性質は外部には現れない。しかし、例えば第1図に示すようにストローをティッシュペーパーでこすると、ストローにティッシュペーパーからの電子が入り込み、負電荷がたまる。一方、ティッシュペーパーは電子が不足するため正電荷をもつことになる。いわゆる分極作用が生じて、はじめ中和状態にあったストローとティッシュペーパーは帯電したことになる。

この事実を確認する一つの方法は、第2図に示すようにペットボトルの上に鉛筆を乗せてストローを近づけると、正、負の電荷間に働くクーロン力によって鉛筆は回転する。

第1図第1図
第2図第2図

ストローと鉛筆が引き合うクーロン力による現象はお互いが電気を帯びたためであり、明らかに静電気の働きである。しかしながら、引き合う現象が観察できたからといって、この事実だけでは静電気が電灯をともす電気と同じものであるという理解にはつながらないはずである。

そこで、この静電気をたくさん集めたら電灯をともすことができるのであれば、証明できるではないかと考えて、更に次のような実験を試みることにする。今度はストローとティッシュペーパーの代わりに、塩化ビニルの太い筒と毛皮を用意し、塩化ビニルの筒を毛皮で強く摩擦した後、暗室のような暗い場所で、キャンプなどで使う小型蛍光灯(4W程度)を塩化ビニルの筒に近づけてみると、瞬間的に点灯することが分かる(第3図)。これは塩化ビニルに蓄えられた電荷が人の身体を通じて流れたため瞬間的に光ったためである。

更に静電気をもっと多量に集めれば、15W程度の蛍光灯でも明るく点灯させることができる。そのためにはプラスチック球をゴムベルトで激しく摩擦するためのモータを備えた、物理実験などで使うバンデグラ—フと呼ばれる装置が必要となる(第4図)。

第3図第3図
第4図第4図

以上のような実験を見れば、摩擦によって得た「静」電気も、我々がコンセントから利用している「動」電気も本質は同じものであることが推量できるであろう。つまり、動電気とは静電気が動いて流れている電気と考えればよい。我々が毎日利用している電気は動電気であるが、これは負電荷をもつ電子が絶え間なく移動している状態を示しているのである。静電気は持続せず、たまった電荷が流れ終わったらおしまいである。したがって、これまで説明した実験で塩化ビニルを毛皮で摩擦して蛍光灯を点灯させても観察できるのは一瞬である。

静電気の学習でよく例に出される落雷現象の場合も、雷雲と大地の電位差が火花放電によって相殺されることによって雷がやむのと同じ原理である。ただし、先のバンデグラーフ装置の場合は、モータを回している限り、静電気を供給し続けるため、蛍光灯の点灯は持続する。

歴史を振り返ると、静電気中心の研究の時代が動電気時代に移行したのは、ボルタの電池の発明によって電流(電荷の移動)を連続的に利用することが可能になったからである。

2. 点電荷からオームの法則までの論理的橋渡し

これまで実験によって静電気と動電気の本質は同じものであることを証明したが、静電気に関する理論として、クーロンの法則から直流回路まで論理的に関連付けることはできるだろうか。多くの参考書において、まず静電気理論を学んだ後オームの法則、更に直流回路へと学習を進めさせるねらいもここにある。大筋でこの流れを見てみよう。静電気では次のような順序で学習書の内容を進めていく(第5図)。

第5図 静電気からオームの法則への橋渡し第5図 静電気からオームの法則への橋渡し
第6図 導体第6図 導体

第5図に基づいてオームの法則に至るまでの要点を述べることにする。

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まず物質は電荷QQ〔C〕の集合体であることを理解する。そして電荷間にはクーロン力F〔N〕が働くこと。また、電荷の周囲は電界E〔V/m〕を有する空間であり、電界中に置かれた電荷QQは力を受けること。
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電荷が静止した状態では電流が流れない。電荷の移動する現象こそが電流である。静止電荷を移動させるためには電界Eの存在が必要であり、電荷の移動は電荷に働く力(すなわち、電界)によるものと考えられる。
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電荷を移動させるためには、外部からの仕事W〔J〕を行うことが必要となる。いま、電極間の距離l〔m〕だけ電荷QQを運ぶ仕事Wは、仕事の定義から求めると、
formula01
formula01
 
となる。ここで、単位正電荷当たりに要した仕事Wを、電界の位置エネルギーという意味で電位(単位はVである)というが、この場合の電位Vの大きさは、
formula02
formula02
 
 
となる。したがって、距離l間の電位差Vから電界の式は
formula03
formula03
 
 
と表現することもできる。
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さて、導体の中に電界があって、これが電流が生ずる原因であるが、また、電流の大きさは電位のこう配(電位差V)に比例して流れる。導体内の電荷を移動させ、電流を流すためには電界を加えなければならない。導体内のある点の電界をE〔V/m〕とすると、その点の電流密度iiは、
formula04
formula04
 
 
となる。この関係式を微分形式のオームの法則という。
 
* 比例定数のσ(シグマ)は導電率、ρ(ロー)は抵抗率である。
maru5maru5
ここで、第5図を参照して考えていただきたい。
 
この導体を流れる電流Iは(電流密度)×(断面積)であるから、
formula05
formula05
 
 
となる。
 
この形式もオームの法則である。
 
* この式で抵抗formula_06formula_06であるから、formula_07formula_07となる。