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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
ベクトルの合成と交流電気回路計算 東京電気技術高等専修学校 講師  福田 務

正弦波交流回路の電圧、電流は、本来、瞬時値計算しなければならないが、定常状態に限って言えば、系統各部の電圧、電流の大きさの比、位相差は一定である。この性質を利用することにより、正弦波交流回路の瞬時値をベクトルに置き換えれば計算が簡単になる。ここでは、ベクトルの合成と交流電気回路計算への適用例を解説する。

※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます

01.ベクトルをどう料理するか

(1) ベクトルは絶対値(矢の長さ)と偏角(傾き)で表す

 方向と大きさをもつベクトルは矢印で表現されるが、ベクトルの方向は空間的に考えると無数にあることになる。そこでそのベクトルを含む平面上(例えば、紙面に書かれるベクトルは同一平面上にあるといえる)で扱えば、ベクトルの位置や向きをはっきりさせることができる。したがって、第1図のように基準ベクトルに対して偏角によって、ベクトルの方向を表している。
 この場合、 formula001formula001 の文字の上に「・」が付いているが、これはドット formula002formula002 と読み、ベクトル記号を示し、その大きさは(絶対値)は formula003formula003 と書く。また、偏角は基準ベクトルから反時計方向に測った角度を正(+)とし、時計方向に測った角度を負(−)として扱うことにしている。

(2) ベクトルは平行移動できる

 第2図のように同一平面上にある、いろいろな向きのベクトルは平行移動できる。

(3) ベクトルの和も差も対角線がねらいどころ

 ベクトルの和を求め方(第3図)
 ベクトルの差の求め方(第4図)


02.R,L,Cを直列に組み合わせるとどうなる

 第5図(a)に示す formula007formula007formula008formula008formula009formula009 直列回路では、 formula010formula010 とはならない。つまり、それぞれ位相差があるため代数和をとっても答は得られない。
 この場合、図(b)に示すように、回路に流れる電流 formula011formula011 を基準ベクトルとして、各素子における電圧ベクトル formula012formula012formula013formula013formula014formula014 を位相差を考慮して描いてみる。次に図(c)に示すように、これらのベクトル和を求めてみると、電源電圧 formula015formula015 が求められる。このようにベクトル図が描けると、数値が与えられれば、三平方の定理を用いて formula016formula016 の絶対値を求めることができる。
formula017
formula017

ただし、 formula018formula018 :誘導リアクタンス formula019formula019 〔Ω〕、
formula020formula020 :容量リアクタンス formula021formula021 〔Ω〕
 直列回路で電流ベクトルを基準にとったのは、 formula023formula023formula024formula024formula025formula025 に流れる電流が一定であるからである。


03.R,L,Cを並列に組み合わせるとどうなる

 直列回路の電圧の場合と同じで、第6図(a)に示すように、端子間の電圧は一定であるが、各枝電流 formula029formula029formula030formula030formula031formula031 の間に位相差があるために、 formula032formula032 とはならない。そのため、電圧 formula033formula033 を基準ベクトルにとり、それぞれの素子の電流ベクトルを描き、(b)図のようにベクトル和を求めれば、電流 formula034formula034 の絶対値が求まる。この場合も数値が与えられていれば三平方の定理で電流 formula035formula035 の値が得られる。
formula036
formula036


04.R,Lを直・並列に組み合わせるとどうなる

 第7図に示すように直・並列回路の場合のベクトル図はどうなるのであろうか。この場合は何を基準にベクトル図を書けばよいのであろうか。
 まず、何を基準ベクトルにとればいちばん書きやすいかを考えてほしい。 formula039formula039 を基準ベクトルに選べば、 formula040formula040formula041formula041formula042formula042 は簡単に描けることに注目し、 formula043formula043 を基準ベクトルと決める。 formula044formula044formula045formula045 の並列部分は第8図(a)のように描ける。
また、 formula046formula046formula047formula047 と同相であるから、 formula048formula048 の延長上に formula049formula049 を描けばよく、図(b)のようになる。
 第9図に示すように formula050formula050formula051formula051 を合成すればベクトル図は完成する。
 しかし、この場合の電源電圧 formula052formula052 の絶対値は、 formula053formula053 とはならない。 三平方の定理の前に三角関数を用いて、式をまとめておかなければならない。そこで、第9図の見方を変えて第10図のようにする。
 ここで△obcを考える。 formula054formula054  、 formula055formula055   であるから、
formula056
formula056
として求めることができる。