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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
ベクトルの複素数表現と、複素数による合成計算例 東京電気技術高等専修学校 講師 福田 務

交流回路は、ベクトルを用いて計算することができる。ベクトルは図形を基本としたものであるが、図形に頼るだけでは複雑な回路になると限界が生じてくる。そこでベクトルによる図形処理を数式計算に置き換えることができれば計算が容易になる。ここでは、ベクトルの複素数表現と、それを用いたベクトル合成の計算方法を解説する。
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01.ルート1の不思議な働き (虚数ってなんだろう)

 いま方程式 formula002formula002 を解こうとして、 formula003formula003 と答えが出てしまえば、これは解けないと考えてしまうであろう。この場合、 formula004formula004 とあえて求めたとしても、負の数の平方根は日常生活で使うことはないから、別世界のものととして数の仲間から除外してしまいたくなる。
 ところが、実はこの別世界の感じのする formula005formula005 という数が、交流回路の計算にすばらしい威力を示すのである。なぜなのか、考えていくことにしよう。


02.√-1=jの生い立ち

 この日常生活と関係のない formula007formula007 という数をなんとか役に立たせようと考えて成功させたのは、数学者のガウス(1777〜1855)であり、電気工学者のスタインメッツである。
 この formula008formula008 を虚数と呼んで一応、数の仲間に入れる。いちいち formula009formula009 と書く代わりに数学では虚数(imaginary number)の頭文字をとってiと表現している。ところが、電気工学では困ったことにiといえば電流の記号に決まっているため混乱するおそれがある。そこで、まぎらわしさを避けてiの次のjという記号を使って虚数を表している。
 根号の中が負になる数はみな虚数であるが、特に formula010formula010 は、 formula011formula011formula012formula012 の基本になる虚数という意味で虚数単位と呼んでいる。例えば、 formula013formula013 のように書く。


03.虚数が実数に、実数が虚数に化けるjの姿

  formula014formula014 のもつおもしろい性質を紹介しよう。それは虚数 formula015formula015 に対して、 formula016formula016 を順々に掛けていくと、その度ごとに虚数になったり、実数になったりすることである。
  例えば、 formula017formula017 (虚)⇒  formula018formula018 × formula019formula019formula020formula020 =−1(実)⇒ −1× formula021formula021 =− formula022formula022 (虚)⇒ — formula023formula023 × formula024formula024 =— formula025formula025 =—(−1)=1(実)⇒ 1× formula026formula026formula027formula027 (虚)⇒ ・・・・・
  このような性質を、電気の計算にうまく利用しようというのが、虚数を使う大きなねらいなのである。希望はベクトル図を formula028formula028 を用いた数式で表したいのである。そこで考え出されたのが、ガウスによる formula029formula029 を書き込めるような座標平面である。
 みなさんは、座標といえば、中学校以来なじみの深い、X 軸 とY軸をもった座標を思い浮かべるかもしれない。ところが、この座標上の点は、みんな実数の点しかおくことができないため formula030formula030 という虚数の入り込む余地はない。そこで、少しだけこの実数座標を改良して、 formula031formula031 をおくことのできる座標を考えたのがガウスによる複素平面である。複素平面は縦軸を虚数formula016formula016 の目盛にして、横軸を実数の目盛にした一風変わった座標平面である。
 この formula032formula032 をのせる独特の座標平面を複素平面(あるいはガウス平面)と名付けているが、これを使えば、1個のベクトルは一つの数式で表現できる。今まで慣れてきた実数だけのXY座標面と比べてみると奇妙な感じがするかもしれないが、ベクトル図を数式表現するためにはもってこいの座標面なのである。


04.jを活用する複素平面のおもしろさ

 複素平面は第1図のように縦軸を虚数 formula033formula033 の目盛に、横軸を実数の目盛にしたものであるが、この座標面のおもしろいことは、ある長さの実数に formula034formula034 を掛ける度に、座標上の位置を時計と反対周りに90°ずつ回転をするという性質にある。
 発電機はコイルが回転して交流を生み出すが、交流を数学的に処理するのに虚数 formula035formula035 が役に立つことはなんとなくイメージできるであろう。  さて、第1図の長さ B を仮に、ある電流の大きさ B アンペアのベクトルとする。そうすると formula037formula037 は、 formula038formula038 より90°位相の進んだ電流を表すベクトルになる。 formula039formula039 アンペアなんて聞いたこともないなどと考え込む必要はない。つまり大きさ B が電流の実効値で、 formula040formula040 は、ただ90°進んでいるという意味をもたせて、付けてあるのだと考えればよい。


05.ベクトルをわき役にする複素数とはなんだろう

 いま、第2図に示すようなコンデンサ formula041formula041 と抵抗 formula042formula042 の並列回路での合成電流 formula043formula043 は虚数 formula044formula044 を用いると、どうなるか考えてみよう( formula045formula045 と仮定する)。
 普通に考えて、抵抗を流れる電流 formula046formula046formula047formula047 〔A〕とすると、コンデンサを流れる電流 formula048formula048formula049formula049 〔A〕となることがわかる。
 したがって、 formula050formula050 〔A〕となる。
  これは算術和だからベクトル和でなければだめではないか、と思う人がいるかもしれない。 ところがどうだろう、複素平面上におかれた formula051formula051formula052formula052 の大きさをベクトルだと考えることにすると、 formula053formula053 は第3図で示されるように、複素平面上でベクトル和を表すことになる。 formula054formula054 は算術和のように見えても、実際はベクトル和になることに注目しよう。
 さて formula055formula055 は、実数Bと虚数 formula056formula056 の付いたふしぎな数であるが、これが複素数と呼ばれる数である。例えば、みなさんも経験がある二次方程式 formula057formula057 を解くと、
formula058
formula058
というふうに、実数±虚数という形になる。結局、複素数というのは、数全体の総まとめに相当する数のことである。複素数はすべて複素平面上に表すことができるし、同時にそれはベクトル表現にもなるのである。まとめておくと、いまベクトル formula059formula059 を複素数で表すには、X軸の成分(実数) formula060formula060 、Y軸の成分 formula061formula061 を求め、 formula062formula062 として第4図のように表現する。なお、 formula063formula063 の絶対値は formula064formula064 、偏角 formula065formula065formula066formula066 によって求まる。  例えば、 formula067formula067 を表すには第5図のように、実数軸上の4と虚数軸上の formula068formula068 の位置から垂線の交点と原点を結べばよい。このようにすると、ベクトルと複素数が連絡できる。  ベクトルと複素数に関係する例題をひとつやってみよう。
 〔例題〕 次の複素数で表される電圧のベクトル図を描き、 formula069formula069 それぞれの大きさ及び formula070formula070 の大きさを求めよ。  formula071formula071 〔V〕 formula072formula072 〔V〕
 〔解答〕 電圧の複素数表示をベクトルで示すと第6図のようになる。
formula074
formula074
formula075
formula075
formula076
formula076
formula077
formula077


06.偏角の扱いに注意すること

 複素数の偏角 formula078formula078formula079formula079 を求めて得られるが、 その複素数が第何象限にあるかを確かめて答え を出さないと、とんだ失敗をすることがある。 例えば、 formula080formula080 の偏角 formula081formula081 を求めるとき、 formula082formula082 から、 formula083formula083 が−1になる角度は135°か315°であるが、式が座標面の第2象限にあることを確認して135°を答えとする。(第7図)